■ きっかけ(現場の一場面)
「先生、相続税の申告は10か月ですよね。でも、今は何から手をつけたらいいのか分からなくて…」
ご家族を亡くされた直後の面談で、よくいただく言葉です。
多くの方がまず「相続税の申告」を意識されます。
しかし、実務の現場では、相続税申告の準備に入るよりも前に整理しておくべきことが複数存在します。
私たちゆたか税理士法人では、最初の面談で必ずお伝えしていることがあります。
それは
「まず、残されたご遺族の生活に不安がないようにし、故人様のお金の流れを整理しましょう」
ということです。
■ 制度・一般論(最低限の整理)
ご家族が亡くなられた後、ご遺族が対応する主な手続きには、次のようなものがあります。
・生命保険金の請求
・未支給年金の請求
・医療費・介護費の精算(高額療養費の還付申請、介護保険料過誤納還付金など)
・公共料金やクレジットカードの停止・名義変更(凍結前に引き落とし口座の変更を推奨します)
・銀行口座凍結後の対応(銀行が死亡の事実を知ると口座は凍結され、入出金や引き落としが停止されます。)
・定期的な引落しの確認
・不動産の管理(空き家の場合は特に注意)
これらは、相続税申告とは別の「生活実務」 にあたります。
しかし、この部分を整理しておかないと
・不要な支払いが続く
・受け取れるはずのお金を受け取れない
・生活費の見通しが立たない
といった状況になり、結果として相続手続き全体がスムーズに進まなくなることがあります。
■ ゆたかの判断
― 私たちが大切にする「3つの順番」―
順番を誤ると、本来受け取れるお金が遅れたり、不要な支出が続いたりするためです。
私たちは、次の3ステップで優先順位を整理します。
① 止める:不要な支出を止める
② 受け取る:受け取れるお金を確保する
③ 整える:財産やお金の流れを把握する
「整える」とは、亡くなられた方の財産の全体像とお金の流れを、ご遺族が正しく把握できる状態にすることです。
この順番には理由があります。
ご家族が亡くなられると、銀行が死亡の事実を知った時点で口座は凍結され、原則として入出金や公共料金等の引き落としが停止されます。凍結されると必要な支払いが滞る可能性もあるため、
まずは
不要な支出を止めること(止める)が重要です。≪①止める≫
また、口座凍結前に故人の預金を引き出す行為は、相続財産を費消することになり、相続放棄ができなくなる可能性や遺族間のトラブルの原因となるリスクがあるため、注意が必要です。
次に
生命保険金や未支給年金など、ご遺族の生活資金になるお金を受け取ること(受け取る)を検討します。≪②受け取る≫
例えば、生命保険金の請求は、故人様の意思で受取人が定められており、遺産分割を待つ必要はありません。同様に、未支給年金も相続財産ではなく、遺族固有の権利として遺産分割協議を待たずに請求できます。
生活資金に不安がある場合は、早めの請求をお勧めしています。
また、銀行口座が凍結された後でも、一定の要件を満たせば「仮払い制度」を利用して預金の一部を引き出すことが可能です(上限150万円)。
一方で、銀行口座については、慌てて解約するのではなく、
凍結前に「どの口座から何が引き落とされているか」「どの口座にいくらあるのか」を正しく把握できる状態にします。≪③整える≫
この整理作業(整える)が済んでいると、
・ご遺族の生活資金が安定する
・財産の全体像が把握できる
・遺産分割の話し合いが進めやすくなる
・結果として相続税申告もスムーズになる
といった効果が期待できます。
■ ゆたからしさ ― 私たちのスタンス
相続は、税務手続きだけの問題ではありません。
むしろ最初の段階で必要なのは、
ご遺族の生活と故人様のお金の状況を整理することです。
私たちは、税金を計算する前に
・誰の生活費がどこから出ているのか
・どの口座から何が引き落とされているのか
・受け取れる保険金や年金はいくらあるのか
といった ご家庭の資金の流れを一緒に確認します。
そのうえで
・今すぐやること
・少し落ち着いてからでよいこと
・相続税申告までに進めればよいこと
を整理してお伝えしています。
相続税申告の期限は10か月あります。
しかし、生活に関わる手続きは、気持ちが落ち着かない中で進めなければなりません。
だからこそ私たちは、
「相続税の申告」ではなく
「ご家族が亡くなられた後の生活を整えること」から始める
ことを大切にしています。
相続は単なる税務手続きではなく、
ご遺族が新しい生活に移行していく時間でもあると考えているからです。
もし今、「何から始めたらいいのか分からない」と感じていらっしゃるなら、
相続税申告の話をする前に、一緒に優先順位を整理しましょう。
それが、ゆたか税理士法人の相続サポートの出発点です。